アオイコトリ
七月二日午前八時十分、某市某小学校で、同校に通う小学生、鳥尾藍子ちゃん(七つ)が屋上から飛び降りる事件が発生。
発見したのは同級生で親しい友人だったNちゃんで事件発生当時、彼女は事件前日に藍子ちゃんから自殺の計画とも取れる電話を受けていたことが判明している。
Nちゃんの証言と、藍子ちゃんの残した日記の内容から、警察は自殺の線で捜査を進めている。
◆アオイコトリノオハナシ
あるところにおんなのこがいました。
おんなのこのままはびょうきでした。
ままはおんなのこのなかに、あおいことりがすんでいるといいます。
おんなのこはあたまからあしのさきまでみたけれど、ことりはみつかりませんでした。
おんなのこのままはそれからしばらくして、いなくなってしまいました。
ぱぱにきいてみると、どうやらそらをとんでいったみたいなのです。
おんなのこは、もういちどあおいことりをさがすことにしました。
あおいことりはしあわせをはこんでくれます。
きっとままのいるそらまでつれていってくれるはずです。
あおいことりはなかなかみつかりません。
おんなのこのおともだちは、あおいことりなんていないといいます。
でもおんなのこは、ままのいうことがまちがっているわけがないとおもいます。
じぶんのなかにはあおいとりがいるはずなのです。
かごのとびらがかたくしまっているから、でてこられないのかもしれません。
あるひ、あおいことりをさがしていたおんなのこは、じぶんがことりなのだときがつきました。
おんなのこのなまえはあおいことりだったのです。
あおいことりにはつばさがあります。
このつばさで、そらにとんでいったままのところへいけるはずです。
あおいことりはそらをとびました。
まっしろなくものむこうがわ、あおいあおいそらにとけてきえました。
あおいことりはもういません。
きっとままのところへといったのでしょう。
◆アオイコトリノニッキ
《7月2日》
あいちゃんはママのところに行きます。
今日はよくはれたので、空をとんで行くことにしました。
のりちゃんとはおわかれです。
バイバイのりちゃん。
いつかのりちゃんも空に来たら、そのときはいっしょにあそびたいです。
《7月1日》
きのうとおとといはにっきをさぼりました。ごめんなさい。
でも、すごいことにきがつきました。
ママは青いことりはあいちゃんの中にいるんだといいました。
何のことかわからなかったです。
でも今はわかったので、だいじょうぶです。
青いことりはあいちゃんのことでした。
やっぱりママは何でもしっているんだなっておもいました。
のりちゃんはあいちゃんがことりだってしりません。
だからわかんなかったんだとおもいます。
《6月28日》
のりちゃんが、青いことりがほしいならあいちゃんもインコをかえばいいよって言いました。
でもあいちゃんがさがしているのはインコじゃないです。
あいちゃんの中にいる青いことりです。
のりちゃんはそんなのいないって言います。
ママはうそを言いません。
のりちゃんはおかしい。
《6月27日》
みつからない。
ママにあいたい。
《6月26日》
ママはほんとうに空の上にいますか。
今日は雨です。くもしかみえません。
くもの上にいけばあえますか。
《6月25日》
のりちゃんが青いことりをみせてくれました。
だけどそれはみずいろのインコでした。
青いことりはもっときれいだよって言ったら、のりちゃんがないてしまいました。
ママは青いことりはとってもきれいで、しあわせをもってきてくれるんだよっていいました。
だから青いことりはインコじゃないです。
でものりちゃんがなくのはかなしいので、ごめんねって言ってなかなおりしました。
《6月24日》
のりちゃんのいえには青いことりがいるみたいです。
のりちゃんのことりなので、あいちゃんのじゃないです。
でも、のりちゃんはあいちゃんにみせてあげるって言いました。
あしたがとてもたのしみです。
《6月23日》
青いことりはどこにいるのか先生にききました。
先生はペット屋さんにいるよって言いました。
しあわせの青いことりは、ペット屋さんにはいないとおもいます。
先生のうそつき。
《6月22日》
おそうしきがおわりました。
ママのねむっていたはこはくらいあなにはいってました。
はこがでてきたら、ママはいなくなってました。
パパにきいてみたら、ママはお空の上に行ったよって言いました。
ママは青いとりになったんだとおもいます。
《6月21日》
パパは今日がおつやだと言いました。
おつやはいっぱい人がきて、ねているママにおわかれしにくる日なんだって。
ママはここにいるのにおわかれするのはへんです。
パパが明日、ママがとおいところにいくのだと言いました。
あいちゃんはまだママといっしょにいたいです。
おわかれはいやです。
ママがはやくおきればいいです。
《6月20日》
ママがねたままおきません。
パパはないています。
《6月19日》
今日もびょういんに行きました。
ママは青いことりのばしょをおしえてくれません。
あいちゃんがなくと、ママはすこしだけおしえてくれました。
あいちゃんの中に青いことりがいるんだって言いました。
《6月18日》
ママのいるびょういんに行きました。
ママはあいちゃんにえほんをよんでくれました。
青いとりのえほんです。
青いことりをみつけるとしあわせになれるんだってママは言いました。
あいちゃんも青いことりがほしいです。
でもどこにいるのかわかりません。
ママはいじわるで、おしえてくれません。
《6月17日》
パパがにっきちょうをかってくれました。
今日からかきます。
ママがいないあいだ、あいちゃんが何をしていたのかかいて、ママにみせるんだよってパパは言いました。
ママはすぐにかえってくるのに、パパはへんだとおもいます。
でも、パパがなんかかなしそうなかおをしたので、あいちゃんはにっきをかくことにしました。
ママがかえってきたら、こんどはママといっしょにかけばいいです。
◆アオイトリノツブヤキ
ねぇ、あいちゃん。青い小鳥ってどこかへ探しにいって見つかるものじゃないのよ。
あいちゃんの中にいるものなの。気づいたら、いるのよ。
よくわからない……? そうね、どういったらいいのかしら。
……あ、そうだ。ママ、いいこと思いついたわ。
あいちゃんのお名前はトリオアイコだもんね。
ちょっと見方をかえたらね、アオイコトリになるのよ。
だからね、そういう風にね、ちょっといつもと違うところを見たら、いつのまにかいるものなのよ、青い小鳥って。
だから、ゆっくりと探そうね。
ママはね、もう少しであいちゃんのそばからいなくなるかもしれない。
でもね、青い小鳥はあいちゃんの中にいるからね。ママがいなくっても、青い小鳥がずっとそばにいるからね。
だから、大丈夫よ。ね、あいちゃん……。
ママがいつか鳥になって飛んでいってしまっても、大丈夫だからね……。