はなざかり

人形の夢かなうころ

天国へ手が届くころ

しあわせの道は 花ざかり

屍の道 哀しみの道

いつかはきっと 花ざかり

 

人形は空を見ていました。
人間は誰もいません。 人形はひとりでした。
通りにはがいこつがたくさん転がっていました。
この街は随分昔に死んでしまいました。
この街は悪魔に殺されたのです。
みんなみんな、いなくなりました。
何もかもが消えてしまいました。
ここには人形がひとりだけです。
誰の声もきこえません。

屍の道 悼みの道

いつかはきっと 癒される道

 

ある日、一羽の渡り鳥がやってきました。
彼女は言いました。
「人形さん、何でこんな寂しい場所に?」
「誰もいなくなったので、どうしていいかわからない」
とてもかなしいきもちなのに、 人形だからなみだもでないのです。
寂しい哀しいこの小道。
もうずいぶんと笑い声をききません。
「私は渡り鳥だから、ここに住むのは無理だけど、 かわりに貴方にこれをあげましょう」
飛び立つ間際に鳥が渡してくれたものは、 さまざまな花の種でした。

花の道 喜びの道

墓場となったこの場所に 鮮やかな花を咲かせましょう。

 

人形は花を植えました。
辺りに散らばった骨にはお墓を作って、荒れ果てた土地を耕して、通りに花を植えました。
たくさん、たくさん植えました。
昔の綺麗な道に戻るように。
雨の日も風の日もやすみませんでした。
耕して、植えて、時折墓の掃除もして。
一日だって休みませんでした。
いつしか人形の手足は、ボロボロになってしまいました。
それでも人形は植え続けました。

花の道 安らぎの道

咲き乱れる花の群れ

人形の願いを紡ぐ道。

 

もう花の種はありません。
人形は疲れて座り込みました。
振り返ると、通り一面は若葉でいっぱいです。
安心した人形の身体から、ゆっくりと芽が吹きました。
芽はどんどん数を増やしていって、 やがて動かなくなった人形を包みこみました。

旅人は遠くに一本の木を見つけました。
「あそこにあんな木はなっかたのに」
戦で荒れて以来、この地は永く無人のはずです。
不思議に思った旅人は木を目指して歩き始めました。
木の周辺は、一面の花畑になっていました。

 

花の道 幸せの道

笑い声が絶えなくなる頃

優しい人形は木になって 街のみんなが待つ天国へと昇りました。

2005.1 無料配布同人誌より再録

 

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